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大阪地方裁判所 昭和38年(行モ)5号 決定 1963年7月17日

申立人 大阪府地方労働委員会

被申立人 学校法人谷岡学園

主文

被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁昭和三八年(行)第一六号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が、大阪府地方労働委員会昭和三七年(不)第三〇号事件について、昭和三八年三月二〇日被申立人に交付した命令のうち、湯原俊雄、中野秀彦、柴田巖、今西徳恵、西田和夫、松田三郎および梅田隆夫に対する賃金相当額の支払を命じた部分に従わなければならない。

申立人のその余の申立はこれを却下する。

申立費用は全部被申立人の負担とする。

理由

一、本件申立の趣旨および理由は、別紙申立書に記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙上申書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、申立人が、昭和三八年三月三〇日、その主張のような内容の救済命令を、被申立人に交付したことは、甲第二号証によつて認められる。

そこで、右救済命令の各項について、労働組合法第二七条第八項の決定(以下緊急命令と略称する)をする必要性ないし相当性の有無について判断する。

被申立人は、本件救済命令の違法性不当性について云々するけれども、元来、労働委員会は、準司法機関的な地位において、双方当事者の関与のもとに、慎重な審問を経たうえ、救済命令を発するものであつて、その命令は、確定判決によつて取り消されるまでは、一応、有効性、適法性が推定されるものであること、緊急命令の制度は、救済命令取消訴訟の係属中使用者が救済命令を任意に履行しないことによる労働者の経済的困窮を除去し、かつ訴訟遅延により労働組合側に生ずべき重大な損害を避けるための、暫定的な仮の処分として認められたものであることを考えあわせると、緊急命令を発する際には、救済命令に重大かつ明白な瑕疵がある等特段の事情の認められない限り、緊急命令の必要性について判断すれば足るものと解すべく、右のような特段の事情の認められない本件においては、右救済命令は一応適法なものと推定されるべきである。

三、(1)、申立人の発した本件救済命令は、主文掲記の湯原俊雄等七名(以下被救済者等と略称する。)に対して被申立人が行つた解雇行為(懲戒解雇または通常解雇、以下同じ。)が、不当労働行為に該当するとの判断のもとに、これが救済のために発せられたものであることは、甲第二号証により明らかである。

一方、甲第三号証によれば、右被救済者等は、いずれも被申立人学園の教員として勤務し、被申立人から支給される賃金を唯一の生計維持源としていたものであつて、昭和三七年五月一八日、それぞれ解雇された後は、被救済者等の所属する大阪商業大学附属高等学校教職員組合(以下被救済組合と略称する。)の上部団体たる大阪府私立学校教職員組合連合等からの融資によりその生活を支えて来たけれども、右上部団体による救援融資も、昭和三八年三月末をもつて打ち切られ、現在、その生活は相当窮迫した状態にある事実を認めることができる。

また、甲第三号証によれば、被申立人は、昭和三八年三月二〇日、申立人から本件救済命令の交付を受けたが被救済組合およびその上部団体たる大阪教職員組合からの救済命令履行に関する申入、被申立人学園の監督庁たる大阪府総務部教育課の職員等の説得にも拘らず、現在に至るまで、右救済命令を任意に履行していない事実が認められる。

以上の事情を総合して考えるに、もし、主文掲記の不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、右救済命令のうち、賃金相当額の支払を命じた部分が現実に履行されないときは、被救済者およびその家族の生活は甚しく窮乏し、回復し難い損害をこうむることは明らかであり、ひいては、被救済者者等の被救済組合における正当な組合活動にも重大な支障をおよぼすこととなつて、仮りに、右救済命令が本訴において支持され確定しても、その実効を期し難い結果となるおそれが大である。従つて、本件救済命令第一項中、被救済者等に対する賃金相当額の支払を命じた部分については、緊急命令を発する必要性があるといわねばならない。

(2)、本件救済命令第一項中、解雇の取消を命ずる部分については、救済命令未確定のうちに、このような意思表示を、過料の制裁のもとに強制するのは相当でないし、また、右賃金相当額の金員支払を命じた部分について緊急命令を発する以上、これにより被救済者等の経済的安定は一応得られるのであつて、特に解雇取消の意思表示を命ずる必要はないものといわねばならない。

(3)、本件救済命令第一項中、被救済者等の原職復帰を命じた部分について考えるに、被救済者等が、教育者として直接教育業務に従事できないことによる精神的苦痛、教育技能低下の不安等については、これを推察するに難くないけれども、一方、関係教職員すべてが、一貫した方針のもとに、相協力してその目的を達すべき高等教育の特質を考慮するときは、本件救済命令の未だ確定しない現段階において、被救済者等の原職復帰を緊急命令により強制することは妥当を欠くもので、被申立人の任意の履行を期待する外ないというべきである。

四、本件救済命令第二項は、被救済者今西徳恵に対する譴責処分および定期昇給半額削減処分の各取消を命ずるものであるが、救済命令未確定のうちに、このような意思表示を、過料の制裁のもとに強制するのは相当でないし、前者については、今直ちに同処分を取り消さねばならないような差迫つた必要は認められず、後者については、右救済命令第一項中賃金相当額の支払を命ずる部分につき緊急命令が発せられることにより、被救済者今西徳恵の経済的安定は一応得られることと、その昇給削減額は六五〇円であることを考えると現段階において、同処分の取消の意思表示を命ずる必要はない。

五、本件救済命令第三項についても、その内容から見て、救済命令未確定のうちに、その実現を、緊急命令により強制するのは相当でない。

六、以上の次第であるから、本件申立は、主文第一項掲記の範囲において、これを認容し、その余の部分についてはこれを却下することとして、申立費用の負担につき民訴法第八九条第九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岡野幸之助 美山和義 丸山忠三)

(別紙) 申立書

申立の趣旨

被申立人は原告学校法人谷岡学園被告大阪府地方労働委員会間の御庁昭和三十八年(行)第十六号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定にいたるまで申立人が昭和三十八年三月二十日被申立人に交付した命令の全部に従わなければならない。

との裁判を求める。

申立の原因

一、申立外湯原俊雄、同中野秀彦、同柴田巖、同今西徳恵、同西田和夫、同松田三郎および同梅田隆夫はいずれも被申立人が設置する大阪商業大学附属高等学校の教員であつたが、被申立人は昭和三十七年五月十八日づけで右湯原等七名に対して懲戒解雇または解雇を行なつた。これよりさき、被申立人は同年四月右今西に対し譴責処分を行い、同人に対する昭和三十七年度の定期昇給額を半額削減した。また被申立人は昭和三十七年三月以降右附属高等学校の教員で組織している大阪商業大学附属高等学校教職員組合の組合員の自宅を訪問して組合役員を非難し組合脱退をすすめたり、右組合が被申立人の承認のもとにその事務所に使用していた南館職員室の一部をとりかたずけたりなどした。これに対して右組合は湯原等七名に対する懲戒解雇または解雇ならびに今西に対する譴責処分および定期昇給半額削減の措置は労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であり、また組合員の自宅訪問、南館職員室の一部とりかたずけ等の行為は労働組合法の第七条第三号に該当する不当労働行為であるとして昭和三十七年六月五日申立人に対して労働組合法第二十七条の救済命令を申立てた。

二、そこで申立人委員会に直ちに審査を開始し昭和三十七年七月二十五日より昭和三十八年二月二十日まで十四回にわたつて審問を行ない、同年三月十三日の公益委員会議における会議の結果同月二十日。

(一) 使用者は湯原俊雄、中野秀彦、柴田巖、今西徳恵、西田和夫、松田三郎および梅田隆夫に対する昭和三十七年五月十八日づけ懲戒解雇または解雇を取り消して同人等を原職に復帰させるとともに懲戒解雇または解雇の日から原職復帰の日までの間に同人等が受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。

(二) 使用者は今西徳恵に対して昭和三十七年四月行なつた譴責処分ならびに同人に対する昭和三十七年度定期昇給額半額削減の処分を取り消さなければならない。

(三) 使用者は申立人に対して次の誓約書を手交しなければならない。

年    月    日

大阪商業大学附属高等学校教職員組合

執行委員長 湯原俊雄殿

学校法人 谷岡学園

理事長 谷岡登

誓約書

当学園は、今後、貴組合の運営に支配介入いたしません

(四) 申立人のその他の申立てはこれを棄却する。

旨の命令書を被申立人に交付した。

三、しかるに被申立人は労働組合法第二十七条第六項に基き右命令を不服として御庁に対し前記の行政訴訟を提起したので申立人は昭和三十八年五月一日労働委員会規則第四十七条に基き右行政訴訟に対応して労働組合法第二十七条第八項に定める命令を申立てる旨決定した。仍て申立の趣旨記載のような裁判を得たく本申立におよんだ次第である。

四、なお緊急命令の必要性については陳情書(疎甲第三号証)に記載の通りである。

(別紙)

上申書

一、本件緊急命令申立の原因である申立委員会の行政命令の違法不当について。

被申立学園が提起した御庁昭和三八年(行)第一六号不当労働行為救済命令取消請求事件の訴状において指摘するとおり、申立委員会の本件不当労働行為救済命令は、その事実認定において、経験法則、採証法則を完全に無視し、極めて偏よった見解の下に被申立学園の主張並びに立証を判断したため、重大な事実誤認並びに法律の解釈適用の誤まりをおかしている。

この点について、被申立学園は、御庁が本件緊急命令申立事件について、申立委員会の不当労働行為救済命令申立審査一件記録と共に、特に被申立学園が前記行政訴訟事件において主張する点並びに本上申書に添付する証拠資料を仔細に吟味御検討されるよう希望するものである(本上申書に添付する資料は、前記申立委員会の審査手続において未提出の書証であります。)

本件緊急命令申立にかかる申立委員会の救済命令において申立委員会は、第一に、学校教育の公共性を誤解し、(単に公立学校だけでなく私立学校においても)教職員組合をして学校の教育並びに行政を管理支配させることが教育の公共性からして当然の帰結であるとの考えの下に、本件の場合、校長、教頭、主任及び係等の人事、及び(職員会議を最高決議機関とすることによる)学校の管理運営機構の両面において、教職員組合の支配を確立することが当然のことと判断し、第二に学校における労働関係の特殊性を忘れ、これと一般事業体における労働関係とを同視し、そのため教職員組合と理事者との間の労働争議における学生・生徒の立場をば単なる企業外の第三者と同一視し、その結果教職員組合が理事者との間の労働争議において闘争を有利に展開するため生徒に働きかけこれを利用することを、恰も一般事業体の労働組合がその要求実現のため第三者である一般市民に訴え協力を求めるのと同じ性質のものととらえている。この二つの点が申立委員会の本件救済命令の最も重大な誤謬であり、被申立学園の到底容認しえない点なのである。この点、被申立学園としては、前記行政訴訟事件の訴状において指摘したように、被申立学園と湯原俊雄外六名との間の大阪地方裁判所昭和三七年(ヨ)第一、二三五号仮処分申請事件において同裁判所が示した判断(本上申書添付資料第一)こそ正しいものであり、よく世人を納得せしめうるものと信ずる。御庁におかれても、本件について特に御配慮賜わりたい点である。

二、本件緊急命令の必要性について。

本件緊急命令の必要性の有無について、被申立学園は次の諸点を指摘したい。

第一点 昭和三七年五月一九日、被申立学園が、湯原俊雄他六名を懲戒解雇若くは通常解雇した後、被申立学園大阪商業大学附属高等学校では直ちに新任の教諭を補充して臨時時間割を作成、同年七月の夏休みまでの生徒に対する授業を実施した。同年九月の新学期からは完全且つ正規の時間割に基いて授業を行い、爾来今日まで秋、冬及本年四月からの春の各学期の授業を実施し、この間既に一ケ年三学期に亘つて生徒の教育補導を行つてきた。かような場合、万一本件において、湯原俊雄他六名の原職復帰の緊急命令がなされるならば、学園の混乱はいうに及ばず、その結果附属高校生徒の教育補導に及ぼす障害、悪影響の重大さは洵に想像に絶するものがある。そればかりでなく被申立学園としては、湯原他六名の補充として新たに任用した多数の教諭の処遇に困窮することにもなる。しかも、前述のとおり、本件申立の原因である申立委員会の救済命令には、明白且つ重大な事実誤認、法律適用の誤まりがあり、将来、現在係属中の行政訴訟において救済の判決が確定した場合その間の仮の処分として緊急命令により湯原他六名を原職に復帰させ生徒の教育補導を担当させるならば、被申立学園(及び生徒)の蒙る損害は、もはや何物をもってしても償い難い回復することのできぬものとなることも過言を要しない。このように原職復帰が、被申立学園にとつて回復し難い損害を与えるものであり、したがつて原職復帰は前示救済命令取消請求訴訟の係属中における仮の処分としてこれを命ずることは極めて不適当なことである。けだし『緊急命令の重点は救済命令取消の訴訟係属中における労働者の生活困窮を防止するという労働者の経済的利益の保全にある』からである(御庁昭和二六年一一月一七日言渡「近畿大学」事件労働関係民事裁判例集第二巻第六号(68)御参照)。更に一般民事事件の仮処分と異り、過料の制裁(労組法第三二条前文、第二七条第八項)を加えてまで前記のとおり被申立学園に対し回復し難い重大な損害を与える湯原他六名の原職復帰を命ずることの必要性があろうか。これを又否定すべきである。

第二点 湯原外六名は、解雇後も被申立学園の前記附属高校教職員組合の執行委員として、従前から同組合が組合事務をとつていた同高校の南館職員室の一部に連日つめかけ、組合事務をとり、組合活動を行い被申立学園の理事側との団体交渉にも組合代表として交渉に当つている。したがつて被申立学園の湯原他六名に対する前記の処分自体少くとも教職員組合と学園理事者との間においてはその力関係のバランスに影響を及ぼしたわけでなく、又原職に復帰させるか、否かによつて湯原他六名が組合の事務をとり若くは組合活動をすることそれ自体にはいささかの消長もない筈である。

第三点 更に経済的利益の保全という点についてみても、湯原他六名は、被処分後、前記教職員組合の上部団体、労働金庫等により、当初は賃金の全額、現在は賃金の八割に相当する額について補償を受けており、経済的生活を保全すべき緊急性は薄弱である。

三、以上述べた理由から本件緊急命令申立は却下されるべきものと信ずるものであります。仮に賃金支払の点についてその全額若しくは一部の額の支払いにつき緊急性が認められるとしても、少くとも被申立学園に対し回復し難い決定的な損害を与える原職復帰(又同様の理由で償い難い打撃を与える、ポスト、ノーティス及び今西徳恵に対する譴責処分の取消)の申立は当然却下されるべきものと信ずるのであります。

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